北の洞窟ではいろいろあったけど、とりあえずは役目は果たせたかな。この後は、どうすればいいんだっけ……王様への報告をしにいけばいいのかな。村へ帰る道中は、ひと仕事終えたこともあり、気分も楽になっていた。ゾルダは相変わらずだし、フォルトナもなんだかんだ言って元気だし。それに……全員無事に帰れることは何よりだ。しかし、ゾルダがブチギレした所為で、結局は魔王たちの目的までは聞き出せなかった。ブチギレて無くても、あのシエロの賢さじゃ……まぁ、わかってなかったかな。思い出しながら、苦笑いする。分かったのは何かをやるために魔王が動いていること。それと、先陣でクロウって言う四天王が動いていることかな。ゾルダは全然そのクロウってやつを知らなかったみたいだけど……そのことは、道中、フォルトナが寝ているときに、それとなくゾルダに聞いてみた。でもやっぱり覚えていないらしい。現魔王のゼドと当時の四天王以外はあまり接点はなかったらしく……『そんなこと言われても、覚えておらん』と言われ、一蹴された。ゾルダの記憶力も本当にいいのか悪いのかよくわからない。封印されていたって言っていたけど、その影響もあるのかな。そんなことを考えながら、村へ向かっていた。しばらくすると、フォルトナが大きな声を出した。「ほら、アグリ、シルフィーネ村が見えてきたー やっと帰れたねー この村がやっぱり落ち着くなー」フォルトナは無邪気に笑い、村へと走っていく。一方、ゾルダも……「今晩は、いい酒が飲めそうじゃ。 しばらく飲んでないからのぅ」やっぱりはやく酒が飲みたいらしい。「先にアウラさんに報告してからな」そして、シルフィーネ村へ着くとすぐにアウラさんの屋敷へと向かった。屋敷の前にはアウラさんとカルムの姿があった。「アウラさん、ただいま戻りました」「あら、勇者様。 さすがお帰りが早いですね。 首尾よく行きましたか? フォルトナはご迷惑をおかけしていませんでしたか?」矢継ぎ早に質問がくる。「えっと、そうですね…… 北の洞窟にいた魔物は倒すことが出来ました」アウラは俺の報告に笑顔で応える。「はい、勇者様であれば当然のこと。 そこまでは気にしてませんでしたよ」結構大変だったんだけどな……まぁ、それだけ信頼してくれている証でもあるんだが……「
「なぁ、ゾルダ。 そろそろ、剣から出て姿を見せてくれないか。 一人きりで歩いているのも、なんだかさみしく感じて」あやつが何か心許なく感じておるみたいじゃのぅ。「なんじゃ、おぬしは一人ではさみしいのか」「そうかもしれない。 ここのところ、フォルトナも居たし、賑やかなことが多かったから。 もくもくと歩いて、戦って…… そういうのもなんかなぁと思って」そういえば、シルフィーネ村を旅立ってから数日は経っておるところじゃ。それも致し方ないのかのぅ。人というものはお互い触れ合っておらんとさみしいのかもしれん。「小娘も、小娘の娘も、ワシからしたら賑わしいったらありゃしない。 あんな五月蠅い奴らとの旅はもうごめんじゃ」「そうかなぁ…… 俺は楽しかったけどな。 久々に人の温もりを感じて嬉しかった」まぁ、道中はともかく、村で酒を飲めたのはワシも嬉しかったぞ。ただ、もう少し酒が飲みたかったのぅ。休息も兼ねて数日は浴びるほど飲んだのじゃが。少し酒をくすねてくれば良かったかのぅ。「ほぅ、それは良かったではないか。 また向こうに着いたら、そういう奴もおるじゃろう」「そういう気さくな人たちがいるといいな」そういえば村をたつ前に見送りに来ていた小娘の娘は、いつもの元気じゃなかったのぅ……小娘の娘もさみしかったのかもしれんな。まぁ、ワシの知ったことじゃないがのぅ。「ただワシは、他の者がいると剣に入れずゆっくり休めん。 今は、剣の中で休ませてくれ」「えーっ」「おぬしは文句を言わず歩け。 魔物が出てきたら倒せ。 もうザコしかおらんじゃろ」それにしても、あやつとワシはじじいからの伝言もあって東の……なんとかって街に向かっているところじゃが……なかなかと辿りつかんのぅ。あと数日はかかるやもしれん。もう少し剣の中でゆっくりできるじゃろ。ところで、ゼドは何を企んでおるんじゃ。思惑はどこにあるのじゃ……まず何故ワシを封印したのか。ワシに対して何かの不満があったのじゃろうが……それとも野心が膨らんできたのか。ゼドの内心まではわからんが、そんなところじゃろう。あとはこの封印の仕方じゃが……あやつとの行動でなんとなくじゃが、分かったことは……あやつの存在が封印を解く鍵なのじゃろう。勇者と言っておったからのぅ。魔王と勇者は相
シルフィーネ村を旅立ってからどのくらいたっただろう。岩がゴツゴツと飛び出ていた北東部の丘を越えて……永遠と砂の海が広がるところを何日も歩いた。「まだ着かないのか~ ずっと同じような景色でさー 進んでいる気がしない」「仕方ないじゃろ。 この砂漠は広大じゃ。 でも、あともうちょっとじゃ、頑張れ」ゾルダは剣の中でのうのうとしている。シルフィーネ村を旅立ってから、一度も出てきてない。ずっと一人で歩いている。汗もだらだら出るし、水を飲んでも飲んでも足りない。なんとか水を確保しつつ進んでいるけど……それでも足りない。「あのさー、ゾルダ。 一歩も外に出てないのにさ。 何が『あともうちょっとじゃ」だ。 楽しすぎだろ」「ワシは戦うときと飲むとき以外は出とうない。 こんな暑いのに外に出る意味はないのぅ」ゾルダの言うこともわかる。大いにわかるが……「なんで俺だけがこんな目にあうんだ。 この暑さ、ゾルダも味わえよ」「いやじゃ、いやじゃ。 おぬしだけで十分じゃ」はーっ……そりゃそうだ……まぁ、気を取り直して進むしかないか。ゾルダが出てこないまま、またしばらく歩くと、ようやくイハルの街が見えてきた。砂漠の中のオアシスといった感じの街のようだ。たしか、シルフィーネ村を出るときに、アウラさんが、『イハルに入るには魔王軍を倒さないと入れないかもしれません。 魔王軍を倒して、イハルに入ったら、領主であるデシエルトを訪ねてくださいね。 国王から、勇者様が行くことは伝わっていますので~」とか話していたな。でも、イハルの街を見ても、魔王軍の欠片もない。確かに外壁は崩れていたりはするけど……「なぁ、ゾルダ。 なんかアウラさんの言っていた状況と違わないか」「うむ。 そろそろ戦えるものと思っていたが…… 静かじゃのぅ」城壁の扉の中へ入り、街を見渡しても、特に大きな変わりはない。人々も壊れた家や道路を忙しそうに修復している。「いったん魔王軍は撤退したんだろうか」「そうじゃのぅ……」「まずは領主のデシエルトさんのところへ行くか」街の中心にある立派な屋敷へと向かう。至る所が破壊されていて、魔王軍の進軍の凄まじさがわかる。「どれだけ強い魔物が来たんだろうな。 あちこちが壊れている」「ワシから見たら取るに足らんものば
アグリとゾルダが旅立ってから数日がたったんだけど……なんかモヤモヤするー。ん?モヤモヤじゃないかー。ソワソワかなー。母さんは相変わらず人使いが荒いし。今日も人手が足りないからって風車の修理手伝ってこいって。その前も、カルムが別の用事でいないからってさ。国王に勇者たちの報告に行って来いって、セントハムまで行かされるし。もう!ボクだって!魔物退治を手伝ったんだから、少しはゆっくりさせてよ!「おーい、お嬢! こっちの風車の修理は終わったぞ!」風車の上からオンケルがボクに向かって大声で叫ぶ。「はいはーい! ありがとう! これで、全部修理は終わったかなー」でも、なんだかんだで言われている通りやっているボクはえらいね。自分で自分を褒めちゃおう。「そうなりやすねー、お嬢」「オンケルさん、もうお嬢はやめてよー ボクはフォルトナっていう名前あるんだから」「あっしにとっては、いつまででもお嬢ですよ。 長の娘でもあるわけですから」この村にいるとこういう風に扱われるのが嫌なんだよなー。もっともっと自由にいろんなことしたいのに。祠を見て回っている時が楽しいや。それに……やっぱりゾルダとアグリと一緒に魔物退治しにいったのが、なんだかんだで楽しかったなー。ちょっとした冒険っていう感じで。またあの二人と一緒に冒険したいなー。「まぁ、とりあえず終わったなら、母さんに報告しておくねー オンケルさん、ありがとう!」「お嬢もお手伝いいただきありがとうございやす。 人手も足りなくて苦労していたので、助かりやした」「いいよー、そんなことー お礼は母さんに言っておいて! 手伝ってこいって言ったのは、母さんなんだから」そう話すと風車の下を離れて、家へ向かっていった。向かっている途中に、さっと後ろを動く影が見えた。あれは……「ねぇ、カルムさんでしょ? 母さんに何か言われた? 尾行、甘くない?」尾行じゃないなー、あれは。たぶん、わざと気づくように動いたかなー。「さすがですね、フォルトナお嬢様」カルムさんがボクのすぐ横に姿を現した。「そんなことより、母さんにしっかりやっているか見てこいって言われたの? もー、まったく心配性なんだからー」「いいえ、アウラ様はそんなことはおっしゃっておりません。 私が用を済ませて帰る途
到着した次の日。もう一度、会えるか確認するべく、俺たちは領主の屋敷へと向かった。たぶん会えないのだろうとは思うけど、やっぱり様子が気になる。「おぬしも意味のないことをするのぅ」ゾルダは領主の屋敷へ行くのは気乗りしないようだ。「まぁ、空振りに終わるだろうけど、少しでも何か掴めればと思って」「この手の奴らはそう簡単に尻尾を出さんぞ。 まだ辺りかまわずボコボコにしていく奴らの方が、相手は楽じゃ」「えっ? ゾルダのように?」「お……おぬし、何を言う。 ワシは、もっと狡猾じゃぞ」「あれだけ力任せにやっていて?」「あっ……あれは……」ゾルダはちょっとふくれっ面になってきた。「あれは、ワシの方が完全に力が上だったから、ボコボコにしただけで…… 決して何も考えていない訳じゃないぞ。 勘違いするな、おぬし」いや、あまり考えていなかったような気もするが……ゾルダと対等という相手を見たことがない以上、確認する手だてはない。「あー、わかったわかった。 ゾルダもよく考えて行動しているよ」「おぬし信用してないな、その口ぶりは。 今回、どうするかよーく見せてやるから見ておれ」ゾルダがどういう風に今回のことにどう対応するか見てみたいと思ったので、ちょっと聞いてみた。「じゃあ、ゾルダだったら、どう様子を探る?」「そうじゃのぅ……」何やら真剣に考えている様子。もしかしていい案が出てくるかな……「まず門番をブチ倒して、昨日出てきて男も倒して、乗り込む」期待した俺がバカだった……やっぱり正面からじゃん。「そんなことして、もし領主が人質にとられていたらどうするんだ?」「一人二人死んでもかまわんじゃろぅ。 ようは敵を倒せれば問題ない」相変わらず強引だ。というか、ゾルダは元々魔王だし、人を助ける義理はないのか。「今回は、イハルから魔王軍を撃退してほしいというのが国王からの依頼。 ただその中には俺はイハルの人々も守ってほしいというのも含まれていると思っている。 領主もイハルの街の人だし、助けるうちには入っているよ」「そういうものかのぅ。 人族は面倒じゃ」ゾルダに人の論理を分かってほしい訳じゃないが……今は人の側にたっている以上、その論理の中でやってもらわないとな。「悪いけど、俺につきあうなら、俺の言うことも聞いてくれ。 じ
デシエルトとかいう奴の屋敷を訪れてから数日経つが……あやつは何をちまちまやっておるのじゃ!街に出ては人々に話を聞き、また屋敷へ向かって話を聞き追い返され……その繰り返しじゃ!いったい何をしたいのかが、さっぱりわからん。「おぬし、いったい何をしておるのじゃ」「情報収集だよ」「ジョーホーシューシューとな? 何をそんなに時間をかけておる」「まずは『敵を知り己を知れば百戦危うからず』だよ」「何じゃ、それは……」「敵を知って、自分を知れば、危険なことはないってこと」あやつは妙なことを言うのぅ。敵を知る必要ないじゃろ。「そんなのは圧倒的な力を示せば……」「それはそれでわかるけど…… 今は人質にとられているかもしれないデシエルトさんを助け出す必要があるから。 万が一にも、命を落とさせてしまってはいけない。 だから慎重に動いているんだよ」うーん。人というのはそういうものなのか。さっぱりわからんが……ただ、あやつのことを無視して、剣を捨てられてしまうと封印は解けなさそうじゃしのぅ。でも聞いてばかりじゃ進まんと思うのじゃが……「のぅ、おぬし」「何? ゾルダ」「話を聞いてばかりじゃ、何も起こらないと思うのじゃが…… ここは、屋敷の様子をこっそり覗くとか出来ないかのぅ」「確かに!」「そこでじゃ! ワシがこっそり覗いて来るというのはどうじゃ?」このワシにしては名案じゃろ!あやつもいい返事を出してくれるじゃろう。「うーん……」あれ?なんかワシが思ったのと反応が違うのぅ……「何かワシの案に不満でもあるのか?」「いや…… 案としてはいいんだけど、ゾルダに任せるのが不安というかなんというか……」何?ワシに任せられないというのか!「おぬしはワシが信用ならないというのか」「うん」あやつ、即答しおった。苦笑いしかでてこない。「な…何故じゃ」「えっと、そのまま暴れてこないかと……」「そんなことはせん! こっそり覗いてくると言ったじゃろ!」「えーっ、でもなぁ…… そうやってすぐ怒るし」確かにちまちまとやるのは性に合わないし……すぐに頭にくるが……でもこのまま何日も暴れられないのは困るのじゃ!「じゃが、じゃがのぅ…… やっ……やっぱり中の様子を伺ってじゃのぅ まずは直接見るのが、一番手っ取り早いのじ
せっかく気づかないように近づいたのになー。ゾルダには分かっていたのかー。「もー、いつから気づいていたのー」「そ……そんなの、だいぶ前からじゃ。 ワシに分からんものなどないのじゃ」「そーだよね、さすが真の勇者だねー」「ん? 何じゃ、真の勇者とは……?」しまったしまった。ボクとしたことが。これは知られてはいけないことだったんだー。「ううん。 何でもないよー」「あれ? 何でここにいるの、フォルトナ。 シルフィーネ村を出るときに何も話してなかったし」それはあの時はここに来ることは決まっていなかったしねー。「まぁー、それはそれだから。 今回は母さんからの伝言を伝えにきたんだー だけど、なんか面白そうなことをしているから、ついてきたんだけどねー」「えーっ! いつから俺たちについてきていたの?」「えーっと、今朝からかなー 昨日には街に着いていたしー アグリたちを見つけたんだけどねー」「なら、なんでその時に声かけてくれなかったんだよ」「疲れていたのもあるしねー まぁ、明日でもいいやーと思って」なんせ追いつくためにだいぶ頑張ってきたからねー。ここまでだいぶ遠かったしなー。「朝また探して見つけたから、ついてきたんだけどー さすが勇者……じゃないや、ゾルダだねー」「そうじゃろう、そうじゃろう。 ワシじゃからな」「で、ここで何しているの? ボクも手伝おうかー」この広い屋敷の外でなんかやってみるみたいだったけどー。本当は伝言も伝えないといけないけど……まずはゾルダたちが何をやっているかに興味あるなー。「イハルが襲われているって話だったというのは覚えている? フォルトナ」「うん。 母さんが言っていたことだねー」「でもここに来たら、こんな感じで襲われた痕跡はあるけど、魔王軍が居なくてね。 それで、俺もいろいろ街で調べたけど……」アグリが話すには、魔王軍が撤退した後、領主の姿が見えなくなったらしい。あと真の勇者様……じゃないやゾルダも魔力を感じているみたいで。どうもここが怪しいと感じているみたいだねー。でも、なんか知らないけどうまく忍び込めないらしい。「それじゃ、ボクが行こうか? こう見えても、忍び込むの得意だよー」そういうのはカルムさんから一通り教えてもらっているしー。気配消してささっと行けると
昨晩は大変だった……ゾルダはいつものことながら、フォルトナも飲むなぁ……二人して盛り上がっていたけど、今のこの街の状況忘れてないかな。ちょっと心配だ。案の定、二人とも朝になっても起きやしないし……昨日ゾルダがフォルトナにどんどん酒を勧めるから、ほとんど話が聞けていない。だから、今日はしっかりと話を聞いて対策を考えないとと思ったけど……「おーい、ゾルダ、フォルトナ。 もう昼過ぎだぞ。 そろそろ起きてくれないか」隣の部屋の扉をノックする。「ん…… もう少し、もう少しじゃ」「むにゃむにゃ…… まだまだ足りないよー」なんだよ。寝ぼけているのか。「いい加減起きろって」バーンと扉を勢いよく開ける。「ホントにさー 眠いのは分かるけど……」まだ寝ているのか布団を被っているゾルダとフォルトナ。ここは……「秘技、布団はがしー」一気に覆っている布団をはがす。って、えー……「おっ……お前ら…… なんで何も着てないのー」「んっ…… 何でと言われてもじゃなぁ…… 確か、飲んで帰ってきてじゃのぅ……」「うーっ ……そんなの暑かったらだよー」「わっ、分かったから、とにかく着てー」もう目のやり場に困るから早く着てほしい。「なんじゃ、おぬしがなんで慌てておるのじゃ? ワシはおぬしに見られて困ることはないぞ」「むにゃ…… ボクは……えっと……」フォルトナは虚ろな目をして座り込んだ。目をこすって周りを見ている。そして、下を見た瞬間、目が覚めたのか、大きな声を上げた。「きゃーっ!」俺は慌てて扉を閉めて、外に出た。そして着替え終わるのを待つことにした。それにしても、暑いからって全部脱ぐかぁ。しばらくしてから様子が気になったので、扉をノックした。「コンコンコン」「もう服を着たか? 入ってもいいか?」「おう、もう着たぞ」「……うん、ボクも……大丈夫」着るものを着たみたいなので、部屋の中へ入る。いつもの姿のゾルダとフォルトナが居てホッとした。「あのさ、ゾルダには羞恥心というものはないの?」「なんじゃ、そのシューチシンというのは? うまい酒か?」「いや、そうじゃなくて恥ずかしくないのかってこと!」「全然じゃな」「ボクは恥ずかしかったよー なんで全部脱いじゃったんだろー もう恥ずかしい恥ずかしい恥
どうやらあのデブが生贄の儀式をしておるようじゃ。昔から永遠とは言わないが長い寿命を持つワシらに憧れる人はようおった。人とは弱く儚いものじゃからのぅ。気持ちはわからんでもないが、この儀式は危険度が高すぎる。もっと他の方法もあるはずじゃがのぅ……目の前に広がる儀式の光景を見ながらワシはそう考えていた。ただ手っ取り早いといういか簡単な方なのではあるのは確かじゃ。人がこの方法を選択するのはあり得ん。たぶん裏で何者かが手引きをしておるな。「よし、俺が止めてくる」あやつが目の色を変えて敵陣へ突っ込もうとして息巻いておる。「もう半ば儀式は終わっておる。 今から行っても儀式は止められんのぅ。 諦めろ、おぬし」集められた人々は生気がなくなり、ぐったりと倒れこんでおるものも多い。あそこまでいくと、もうほぼほぼ魂の類は持っていかれているのぅ。まだ耐えておる奴らもおるが時間の問題じゃ。「でも……」あやつは何か言いたげにワシの方を見てくる。「今からおぬしが言っても、多くを助けられんぞ。 良くて数人じゃ。 そんなことより、どんな魔物になるか、まずはここで見届けようぞ」そうじゃ。たかが数人の命じゃ。さしたる違いはないのぅ。「…… いや、それでも俺は行く。 全員が無理でも、少しでも助けられるなら。 それが命の重みってことだよ。 魔王のお前からすれば、無力な命かもしれないけど」あやつはそう言うと、戦闘態勢を整えはじめた。この世は弱肉強食じゃ。強くなければ生き残れん。弱い奴らは強い奴の糧になるのじゃ。この生贄の儀式だって、そういうことじゃ。助かるものも少ないなかで、危険を背負ってでも助けに行く。あやつの行動は理解できぬ。そんなことを考えておったのじゃが、それに気づいたのか、あやつがワシにこう言ってきおった。「ゾルダが俺の考えを理解しなくてもいい。 わかってくれとも言わない。 たぶん、多くの人も、この状況なら、こんな無謀なことはしない」人としてもそう思うなら、なぜおぬしは助けに行くのじゃ……「でも、俺には少しだけど助けられる力がある。 その力で助けられるなら助けたい。 一人でも多く助けられるのなら」その弱き一人のために力が強い者が全力で臨むなんてどういうことじゃ。おぬしの考えは本当にわからん。頭の中にグルグル
フォルトナが去ってからしばらくすると、街の中のいたるところから煙が立ち上った。それと同時に爆発音も響き渡る。「フォルトナ…… ちょっとやりすぎじゃないのか」想定よりも多くのところで事が起きているように感じた。「たぶんじゃが、フォルトナだけではないな」ゾルダがその様子を見て言った。「えっ、フォルトナだけじゃない? どういうこと?」一人で向かったし、他の協力者なんてこの街にはいないはず。「だぶん、小娘の配下たちじゃろう。 この手際よさ、速さ、小娘の娘だけではこれほど出来んじゃろ」そういうことか……それならなんとなく納得が行く。でも、いつ来たんだろう。まぁ、なんとなくフォルトナが心配だから、俺たちの後を数名追いかけていたのだろうけど……「そんなことより、どんどん鉱山からは憲兵がいなくなってきてますわ」マリーが指差す方を見ると、街の騒ぎを聞きつけてか、憲兵たちがその対応に出て行っている。もともとどれくらいいたかがわからないから、何とも言えないが、それなりの数が出て行った。その後も、あちこちで煙や爆発音がするので、憲兵たちはどんどんと街に向かっていた。「これなら、だいぶ手薄になったかな」憲兵たちの出入りが落ち着いたところで、俺たちは鉱山へと入っていった。だいぶ街中への対応に出て行ったためか、少人数の憲兵はいるものの、中には入りやすくなっていた。「ここまでは作戦成功ですわね」マリーが感心したような口ぶりで話しかけてきた。「そうだね。 ただ、この後は中がわからない以上、出たとこ勝負かな」そう、中の様子が全く分からない。どれだけの強敵がいるかもわからないし、まだもしかしたら奥には憲兵が残っているかもしれない。慎重に行動して、なるべく戦わずにいけるといいんだけど……「数も少ないし、人ばかりじゃから、おぬしだけでしばらくはなんとかなるかのぅ」ゾルダは相変わらず余裕な態度で後からついてくる。いざという時に頼らざるを得ないから、今はあまり力を使わせないようにしないと。「この調子なら、なんとかなると思うよ。 ゾルダは最悪の事態に備えて」「真打は最後……じゃからのぅ」高笑いをするゾルダ。まぁ、それはそうなんだけど……ゾルダの出番が少ない方が危ない状況じゃないってところなので、そちらほうが助かる。「マリーは手伝ってあ
宿屋の女の人からいろいろ聞いた翌日--情報の確認の意味もあって、みんなで領主の家へ向かったんだよねー。近くまで行ってはみたものの、憲兵たちが厳重に警戒していて、アリの子一匹入る隙すらなかった。「こりゃ、中に入ってとか言える感じじゃないな」困った顔をしながら、アグリがぼやいていた。「そうだねー。 ちょっとこれだとボクにも無理かな」外がこれだけ厳しいと、中もかなり厳重に守っているだろうなー。「だから、ワシが蹴散らしてあげようぞ」ゾルダは血気盛んに息巻いているねー。その方がゾルダらしいけど。「ちょっと待ってくれ。 ここではまだゾルダの出番は早いから。 もう少しだけ待ってくれ」アグリは慌てて止めに入る。なんかいつものやり取りだねー。「外からは様子は伺えないし、何があるかもわからないから。 いったん、ここは様子見で、鉱山を見に行こう」アグリは領主の家の調査は諦めたようだ。でも、これだけ警備が厳重なら、仕方ないねー。その判断が正解だよ。それから領主の家から離れたボクたちは北東の鉱山の入口へと向かった。山の麓にある入口もこれまた警備がすごかった。人の出入りはあまりなかったので、ずっと男の人たちは中で働いているのかもしれないねー。「こっちも凄いな…… これだけ憲兵を鉱山や家に回していたら、街の入口に人は割けないな」どうやら街の出入りを見張るより、こちらの方が大事なのかもしれないねー。「街の入口に誰もいなかったのは、アルゲオのこともあると思いますわ」マリーがキリっとした表情でみんなが思ってもいなかったことを口にした。そしてそのまま話を続けた。「アルゲオがここの領主の差金の可能性が高いですわ。 アルゲオが出ることで、他の街との行き来が出来なくなり、 結果として、入口の警備もいらなくなりますわ」確かにそうかもしれないねー。マリーってそんな分析できる印象ないんだけどなー。意外に考えてるなー。「たっ……確かにそうかもしれんのぅ。 マリーは頭がいいのぅ。 ワシも考えつかなかったことを……」ゾルダはマリーの頭をナデナデしていた。マリーは満面の笑顔をしている。「当然ですわ。 これぐらいマリーにかかれば、簡単ですわ」胸を張って得意げな顔をしているマリー。そんなに調子に乗らなくてもとは思う。「それはわかったけど
鬱屈とした雰囲気が街を覆っておるのぅ。なんじゃろうな、この居心地の良さは……たぶんワシらの仲間に近しいやつらが何かしていそうな気がするのぅ。街についたとたんに感じる雰囲気が人の街ではないように感じた。明らかに人ではない何かが支配しているのぅ。もしくは関係しているか……あやつは馬鹿正直に調査調査と言うが、この感じだけでもわかるじゃろうに……ホントに感が悪いのぅ。「なぁ、おぬし。 この雰囲気、感覚からして調査せずともわかるじゃろ。 人が作り出したものと違うぞ」街中の様子を探っているあやつに、ワシが感じたことを伝える。「そうなのか? マリーが聞いた人は税が高いっていっていたから、悪徳領主が何かしらしているんじゃないの?」あやつからは能天気な答えしか返ってこなかった。「それもそれであるじゃろうがのぅ…… それだけではこんなことにはならないとは思うのじゃ」「ゾルダの言うこともわかったから。 とりあえずはまだ街の中の様子を伺っていこうよ」あやつはすごく慎重にことを進めることが多い。そんなに慎重に進めても事は進んでいかなと思うのじゃがのぅ。「……勝手にせい」半ば投げやりにあやつの進め方を容認する。あやつに付いて街の至る所に行ってみたが、どこも人はまばらじゃった。男の人の数は少なくそれも爺さんばかり。逆に女や子供が多かった。店や宿屋も女が切り盛りしている様子じゃった。「なんかすごく男の人が少ないな」「そうだねー。 それに活気もなくて、報告と全然違うねー」小娘の娘も話の違いに戸惑っている様子じゃ。確かに、聞いていた話とは大きく違うのぅ。もっと栄えて活気があってというのが、街に出入りしている一部の人の話じゃったと……でももしかしたら、それが全部偽りということもあり得るのぅ。この感じからすると。「こうなると、聞いていた話が嘘じゃったということではないのかのぅ。 一部しか出入りしておらんということは、そやつらも結託しておるということじゃ」「そうなのかな。 アルゲオが出ていたことも関係しているかもしれないよ。 男の人は討伐に向かったとか」またあやつは呑気な考えをしておるのぅ。「ゾルダの言うことも考えとしてはあるんじゃないかなー 中を見ている人が少ないってことは。 結託しているかどうかはわからないけど、口止
ムルデの街が近づいてきた。城塞国家の様相で、一面が高い壁で覆われている。そのためか、中の様子は外からは伺えない。城門も大きな構えをしていて、そこでは関所さながらの入念なチェックが行われていると聞いた。高い城壁には憲兵が配置され、たとえ城壁を登ってもアリの子一匹入らせない厳重な警戒をしているとの話だった。そこまで出入りを徹底していると聞いたため、何か粗相をして入れなかったらどうしようと思うと緊張する。「何をそんなに緊張しておる 入れなくても、そいつらを倒せばいいことじゃ」ゾルダは相変わらず脳筋な考えをしている。たまにはしっかりと考えているときもあるけど、大体強さは正義的な考えだ。「マリーもねえさまの言う通りだと思うわ。 マリーたちを止められるものはないですもの」マリーもゾルダに影響されてか強硬派だ。まぁ、魔族自体がそういうものなのかもしれない。人の常識を当てはめてもとは思うが、でも今は人として行動しているのでなぁ。あまり強引に進んで事を荒立てたくはない。「ゾルダもマリーも頼むから自重してくれ。 なんとか通してもらうようにするからさ」しばらく歩くと、城門の前に辿りついた。門は固く閉じられている。ただそこには憲兵らしき姿は見当たらなかった。「あれー、ここに入門をチェックする人たちがいるはずなのになぁー」フォルトナも辺りを見回すが、本当に誰もいないようだ。「本当に誰もいないようだな。 勝手に入っていいんだろうか……」大きな城門の脇にある出入り用の扉を開くかどうか確認してみる。「ギィー……」鍵などはかかっておらず開いているようだ。「入れるようだねー」フォルトナは周りをさらに確認しているが、人の気配はなかったようだ。普段なら城壁の上にいる憲兵たちも見当たらないようだ。「誰もいないのであれば、入っていいのじゃろぅ さっさといくぞ」ゾルダは出入り用の扉を開けてズカズカと中に入っていく。「ちょっと待てって 普段と違うってことは何かあったってことだろ」そう言って、ゾルダを止めようとするが、お構いなしだ。どんどんと先に行ってしまう。マリーもそれについてさっさとついていく。俺とフォルトナは慎重に周りを確認しながら、恐る恐る扉の中へ入っていった。分厚い城壁の中を潜り抜け、街の中へ出ると……そこはよどんだ空気が
目の前に大きな氷のドラゴンが出てきたと思ったらさー。マリーがしゃしゃり出て、倒そうとしたけど、倒せなくてー。アグリが助けに入って、苦戦しているな―と思ったら……なんか剣とか兜が光りだしてー。光ったなーと思ったら、ドラゴンが真っ二つに割れていたんだけどー。というのがここ最近の流れなんだけど……「ボクの出番がほぼないってどういうこと?」確かに戦いには参加してなかったけどさ。「出番ってどういうことかな。 そういうメタい話は、欄外でやってよ」アグリがなんか言ってきたけど……「何、その『メタい』って言葉! 何言っているかわからないし」分からない言葉を聞いてさらにいらつく。もっとわかりやすく話してくれないかなー。「ごめんごめん。 出番というか、あのドラゴン相手だとフォルトナが戦うのは難しいし、 後ろで控えていたので正解なんじゃないかな」そう言われるとそうだけどさ。ボクに何も出来ることはあの場ではなかったのは確かだけどねー。「ムルデの街までの案内はよろしく頼むよ。 その辺りの情報は持っているんだろ?」アグリはボクを道案内としか思っていないのかな。確かにムルデまでの道のりの情報は母さんに聞いているからわかっているけどさー。「ボクは道案内だけじゃなくて、もっと他にも頑張れるんだから。 そっちも頼ってほしいなー」ちょっと気持ちが収まらないのでグチグチと文句を言う。アグリは苦笑いしながら「頼るところはきちんと頼るから。 機嫌直してくれ」とボクのご機嫌を取りに来た。まぁ、そこまで言うなら、仕方ないなー。「わかったよ。 ちゃんとボクにも役割ちょーだいね」そうアグリに言うと、先頭にたちムルデの街の方へ向かっていく。アグリは慌てた様子で、ボクの隣に並んできた。ゾルダとマリーは、後ろについてくるようだ。マリーは相変わらずゾルダにベッタリしているなー。「そう言えば、ムルデの街というのはどんなところなの?」アグリがこの後向かうムルデの話をしてきた。「ボクが聞いている話だと、なんかとても栄えていて、 人も温厚で、活気があるって聞いてるよ」「へぇ、そうなんだ」アグリはうなずきながらボクの話を聞いてくれた。「ただ、一部の商人や役人以外は、ムルデの街への出入りは出来ない状態なんだ。 街の人たちも、居心地がいいのか、誰一
「危ない!」思わず声を出し、体が反応してしまった。気づけばマリーの前に立ち、氷壁の飛竜の攻撃を受け止めていた。マリーはあっけにとられた顔をしている。「うりゃーーーー」さすがにアルゲオの攻撃は重たい。なんとか受け止めて弾き返したが、まだ手がジンジンとする。さて、この後どうするかな……マリーの力はたぶんもっと凄いのだろう。俺よりか遥かに。ただ前にゾルダもそうだったけど、何かしらが原因で力を出し切れない状態なのだろう。力を取り戻せるようになるまでは、俺もサポートしないと。ゾルダに一喝されたマリーはゾルダの下へと走っていった。涙がこぼれていたようだけど、力が出せないことがよっぽど堪えたのだろう。考えなしにアルゲオの前に立ったけど、どうしたものかな。さっきの感じだと、攻撃はなんとか受け止められそうだけど……俺の力でアルゲオは倒せるだろうか……手伝わせてよと見得を切った手前、やり切らないとな。思わず苦笑いになる。「おぬし、そいつを倒せるのか? ワシはいつでも準備万端じゃぞ」ゾルダはニヤリと笑いながら俺に言った。「やるだけやってみるさ」そう言うと俺は剣を構えて、アルゲオに向かっていった。「グォッーーーーーー」再び吠えるアルゲオ。そして翼を振り切ってきた。「ガーン」重い一手が剣を捉える。「ぐはっ」さっきも受けたけどかなり重いな。アルゲオの重みが一気に乗っかってくる。さらにアルゲオが攻撃をしかけてくる。翼をやみくもに振り回してくるが、すべて剣で受け止める。手数が多くてなかなかこちらからは攻撃が仕掛けられない。「大丈夫か、おぬし 受けてるだけでは倒せんぞ」マリーを抱きしめながら、俺に対しては煽りをいれるゾルダ。そんなことは俺でもわかっている。でも受けるので手いっぱいで、反撃が出来ない。「言われなくてもわかっているよ」前の俺なら、この攻撃も受け止められなかったのかもしれないが、なんとか受け止められている。そういう意味では成長出来ていると実感が出来る。でもここでは、もう一歩先、反撃できる力が欲しい。直接のダメージはないもののジリジリと追い詰められていく。やっぱり俺ではダメなのか。もっともっと強くならないと……力が、力が欲しい……そう強く願う。その時だった。剣と身に着けている兜が光だし共鳴を
「なんだ! あの大きいドラゴンは?」あいつが大きな声を出す。そんなに大きな声を出さなくても見ればわかるわ。「あいつは確か、アルゲオという氷属性のドラゴンじゃったかな。 氷壁の飛竜とも言われとるはずじゃ」ねえさま、さすがいろいろ知ってらっしゃる。「ボクも名前だけは聞いたことあるけど、実際に見るのは初めてだねー」フォルトナはずいぶん呑気に構えていますわね。「グォーーーーーー」氷壁の飛竜アルゲオが一吠えすると、猛吹雪がマリーたちに向かってくる。風雪に耐えながら、みんなが戦闘態勢を整え始める。特にねえさまからは闘志がみなぎって見えるわ。「さてと…… ワシの出番じゃのぅ」ねえさまが一歩前へ出るところにマリーが割って入ります。「ねえさま、ここはマリーに任せてほしいの」やる気まんまんのねえさまだけど、マリーもいいところ見せたいし。今回はねえさまには悪いけど、マリーに戦わせてほしいわ。「ん? なんじゃ、マリー。 お前がやるというのか……」ちょっと怪訝そうな口調でねえさまがマリーを見てきた。「ねぇ、お願い、ねえさま。 せっかく助けてもらったのだから、少しは役に立ちたいわ」ねえさまが戦いたいのはわかるけど、任せてばかりでは立つ瀬がないわ。ここは是非にでもやらせてほしいという思いもあり、今回は一歩も引かないつもり。「うーん。 仕方ないのぅ。 マリーに任せよう」マリーの覚悟を受け取ってもらえたみたいで良かったわ。ねえさまにいいところを見せないとね。「ねえさま、ありがとう」ねえさまの胸に飛び込んでお礼を言うと、氷壁の飛竜の前へと向かった。「なぁ、ゾルダ、マリーに任せて大丈夫なのか?」あいつが、何か心配をしているようだけど、これぐらいの敵、マリーは大丈夫。「まぁ、本来の力を出せれば、問題なかろう」ねえさまはさすがわかってらっしゃるわ。安心してマリーに任せてね。「さぁ、氷だらけのドラゴンさん。 マリーが相手しますわ。 かかってらっしゃい」氷壁の飛竜がマリーの方を向くと、また一吠えする。「ガォーーーーーー」そんな遠吠えを何度しても無駄ですわ。荒れ狂う竜巻のような風雪がマリーの方に来たけど、一向に気にしないわ。「それだけしか能がないの? このドラゴンさんは。 それ以外してこないなら、こちらから行くわよ」た
しかし、人というのは面倒じゃのぅ。いろいろ頼んだり頼まれたり。己の事だけやっておればそれでいいのではないか。あやつがいろいろと頼まれておるのを見ていると、そう感じたりするのじゃが……「のぅ、おぬし。 大変じゃのぅ。 いろいろと厄介ごとを引き受けて。 ワシじゃったらそんなこと聞かんがのぅ」次の目的地に向かう道すがら、あやつに問う。「そもそもそれが俺がここに呼び出された理由でもあるし…… 確かに何でもかんでもとは思うことはあるけど、 困っている人は放っておけないよ」あやつもあやつなりに考えるところはあるようじゃな。それでも引き受けておるところをみると、人がいいのじゃろぅ。それか、よっぽどのバカじゃ。「まぁ、ワシはゼドをぶっ潰せればいいし、 強い奴らとも相まみえることが出来ればいいんじゃがのぅ」長い間外に出れなかったのもあって、ゆっくりと外の世界を満喫したいとは思う。そうは思うのじゃが……「とはいえ、早くゼドをぶっ潰したいので、先を急がんかのぅ」とあやつを急かしてみる。しかし、あやつは、「急いで行ったら、俺が死ぬよ。 確かにゾルダは強いけど、俺はそんなに急に強くはなれないし、死んだら困るのはゾルダだろ」と正論を言ってくる。おぬしが弱いのはわかりきっておる。だから鍛えてきたのじゃが……確かにゼドたちと戦うには、まだ足りんやもしれぬ。ただ出会った頃に比べたら格段には成長しておるがのぅ。「わかった、わかった。 おぬしに死なれては、また剣の中じゃ。 おぬしのペースでいいのじゃが、ワシら気持ちもわかってくれ」急いても仕方ないので、しばらくはおぬしに付き合っていくしかあるまい。ゼドのところに行くまではのんびり構えておくかのぅ。そんな話をしながら、ワシらは砂漠を超えて、問題の山のふもとに到着した。「なんだか急に寒くなってきましたわ。 ねえさま、寒いですわ」マリーの奴はそう言うとワシにぴったりとくっついてくる。「今まで暑かったのになー 急に天気が変わり過ぎだよー」小娘の娘も寒さに震えだしてきたようだ。山頂の方を眺めると、雲で覆われて何も見えないのぅ。少し上の方を見ると一面が白く覆われておる。「いつもはこんな天気じゃないのかな。 これが異常気象ってやつなのかな」あやつも山を眺めながらそう言っておった